【ペルーときめき便りVol.04】ペルー特派員 仲宗根ゆうこ Yuko Nakasone

2013.04.02 Tuesday

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    【ペルーときめき便りVol.04】 ペルー特派員 仲宗根ゆうこ

    みなさま。またまた予告を裏切ってしまいます。ごめんなさい。ペルーに住んでいるからこそ、お届けしたい旬のテーマに変更です。

    〜ラティーノの夏、海のモンスターでシメる!?〜

     「サメ食べるからおいで」と一風変わったお誘い。招待主は、時々ペルーの家庭料理を教えてくれるアナ。頭の中の妄想レストランでは、巨大な土鍋の中で泰然自若とサメが泳ぎ、未知なる料理への期待に心はスキップ。
     到着すると、アナの家族、遠く離れて暮らすアナのご両親、そして友人ら腹ペコ軍団がお出迎え。アナはテキパキ、お日様のような笑顔で料理をダイニングテーブルへ運び始めた。おや?お皿の中には茶色い料理と豆料理。サメ料理って 意外に地味、いえおとなしいのね。

     実は、その日、キリスト教世界にとって重要な一週間“セマナ・サンタ(聖週間 / 3月24日〜30日)”の終盤に差し掛かる金曜日だった。国民のおよそ90%はカトリック信者。各地でイエス・キリストの受難を体現した儀式、聖行列が厳かに執り行われる。リマの敬虔なカトリック信者は教会へ足を運び、また、そうでない人は、あわよくばこの夏最後のバケーションへと滑り込む。とはいっても、一般的には静かに過ごすことが大前提。週末にあちこちで催されるフィエスタ(飲めや踊れやの宴)は自粛。そして、何より肝心要なのはイエスが死す聖なる金曜日に、家族が集まり食事を共にすること。だが、肉食は御法度。肉はイエスの肉体に等しいという教えなのだ。その日ばかりはペルー人の大好物、ポヨ・ラ・ブラサ(鶏の丸焼き)、アンティクーチョ(牛の心臓の串焼き)、チチャロン(ゆで豚肉揚げ)、そしてファーストフードのほぼ全店が臨時休業となる。その代わりに何を食べるかというと、魚。この時期、魚介類の値が跳ね上がるのも年中行事の一つ。それでもスーパーや市場の魚売り場は買物客であふれ、セビッチェリア(魚料理の店)はどこもファミリー客で満員御礼とあいなる。

     というわけで、アナ家の聖金曜日の食卓は、サメの塩干し(サメの塩漬けを干したもの)エストファード・デ・トヨ(Estofado de tollo )が恒例なんだそうだ。が、サメと言っても海のギャングではなく、エビや小魚を主食にしているホシザメ(学名Mustelus manazo )の一種だった。しかも幼魚。
     お皿の茶色い料理がそれである。恐る恐る褐色のごちそうをフォークですくって一口。身はすぐさまやさしくほぐれた。それもそのはずアナが一昼夜かけて戻したサメの塩干しをコトコト朝から煮込んだというのだから。サメの身は、アヒ・パンカ(赤唐辛子のスパイス・ペースト)とアヒ・ミラソール(黄色唐辛子のスパイス・ペースト)が深く染み込み、香りと辛みが 嗅覚、味覚神経を刺激する。また、乾物独特の旨味がぎゅっと詰まって、美味!そしてお米をニンニクと塩で炒め、炊き上げた香ばしいごはんにのせてみる。ますます箸ならぬフォークが進む、進む。お次はサメの隣の豆料理。ベーコンをベースにヒヨコ豆と燻製の腸詰めをじっくり煮込んだガルバンソ・コン・チョリソ(Garbanzo con chorizo)。これも、いける。ベーコンのコクが全体に広がり、鮮麗な緑、アセルガ(フダン草)のかすかな苦みが心地よい。おっと!そう言えばベーコンも腸詰めも御法度中の豚よね?聞けば、サメで肉断ちを全うしたのだからお固いことは言わずもがな、だとか。そうそう、この国はそうでした。ペルーの流儀“ルールの線引きはゆるやかに”、でした 。

     禁断の豚肉に気を取られていた頃、アナのご主人がぼそっとつぶやいた。「でも、お金持ちはタラの塩漬けを食べるんだけどね」と。
     実は、スペイン征服者たちの到来で、キリスト教伝来と共に聖金曜日にタラの塩漬けを食す習慣が伝えられた。しかし、タラはペルー近海では捕れず、かといって輸入品はあまりにも高価。次第に多くの人が安く手に入るサメの塩干しを代用するようになったという。とはいえ、アナの家庭は裕福な方だ。このお宅では、タラかサメかという選択よりも、古くから受け継がれてきた料理でご両親を持てなし、つかの間の会話を楽しみながら、慎ましく聖金曜日を過ごすことに重きを置いているのだろう。

     思えば、私の初セマナ・サンタは、魚を食べる意味すら気にとめず、 ペルー人の家族とセビッチェリア(魚介料理の店)へ出かけた。初めて目にする、口にする海洋の珍味がテーブルを埋め尽くし、好奇心の赴くまま覚えたてのスペイン語で「¡Qué rico!(おいしい!)」「¿Qué es esto? (これ何?)」を元気よく連呼していたと記憶する。無知とは羞恥なり。願わくば、お尻まですっぽり隠してくれる穴に入りたい・・・・。

      “セマナ・サンタ”。日本人にとって遥か遠い世界観のように見える。でも、年に一度、イエス・キリストと心から向き合うと同時に、大切な人に思いを馳せるスペシャルな一週間なんじゃないだろうか。アナがご両親と過ごすように。 
    そんな勝手な解釈をしてみると、この宗教行事のシーズン、信仰の違いからやや“蚊帳の外”にいる孤独感も吹き飛ぶ。
     この聖週間に便乗して、私も大切な人の顔を思い浮かべてみよう。日本の家族や友人、仕事の仲間たち、ひとりひとりの顔を。

    “セマナ・サンタ”の終わりは、ペルーがぐっと秋へと向かうサイン。
     ちょっぴり、さみしいなぁ。




    Estofado de tollo y Garbanzo con chorizo.
    サメの煮込みとヒヨコ豆の煮込み



    Tollo Seco サメの塩干し



    Tollo Seco サメの塩干し



    ホシザメ(Tollo) こちらは捕れたて (幼魚)



    セマナ・サンタ にぎわうスーパーの魚売り場



    セマナ・サンタ 行列のセビッチェリア



    ペルーの家庭料理を教えてくれるAna



    Anaに料理を教わる特派員
    コメント
    いつも楽しいペルーのお話し、楽しみにしています!セマナ・サンタは日本にいるペルー人の方からお話はきいていましたが、実際ペルーでどんなお祭りがあって何を食べているか等詳しくしることができて面白いです(^^)サメの塩干し、私も食べてみたいです!
    • by Hiroko
    • 2015/06/16 4:09 PM
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